びーの独り言

どこいくの?どっか。

殺人犯はそこにいる

殺人犯はそこにいる (新潮文庫)

殺人犯はそこにいる (新潮文庫)

 日曜日にイズミヤの本屋に行くと平積みになっていた。手書きの文字だらけのブックカバーは異彩を放っていた。あっ、以前ネット記事で紹介されていたのを思い出した。手書きの文字は書店員の推薦文だった。きれいとは言えない字に、理路整然とは言えない文章。しかし、読んで欲しいという熱い思いは十分に伝わってきた。題名は伏せられていたが、隠されると気になるわけで。手に取ると題名がわかった。「殺人犯はそこにいる」、手に取らなさそうな題名だと思った。副題は「隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件」。そんな事件あったっけ?不穏な感じがした。パラパラとめくると、足利事件が出てくるようだった。暗い気分になるのは勘弁と思いながら、書店員の推薦を信じることにした。
 著者は調査報道専門の日本テレビの記者。調査報道とは事件などを調査して世に問いかけ社会正義を実現する、いわばマスコミの崇高な理念に則った部門である。そういうのはドラマの中での話であり、現実にはほとんど機能していないのではないかと思っていた。著者は未解決事件を扱おうというテレビ番組を企画する中で「ゆかりちゃん事件」を取り上げることを選んだ。事件について調査していくとその地域で5件の幼女誘拐殺人事件が起きていることがわかった。5件の事件には共通していることが多く、とても別々の事件のようには思えなかった。しかし、その中の事件の一つである「足利事件」には犯人とされる人物が死刑判決を受け服役していた。ここから警察や裁判所などの国家権力やマスコミの誤報や一般人の無関心などの日本社会の抱える闇との戦いが始まった。
 社会正義のために身を投げうって世に問いかける著者の行動にはただただ驚かされた。こういう人がいたのかというのが率直な感想である。ただ、熱くて筋が通っていても、私はこの本を100%信頼はできない。著者は慎重な物言いをすることはわかっているが、それでもなお著者が脚色をしていないと証明できるだろうか?いくら状況証拠があったとしても、私の目の前で誰かが殺さない限り、私には誰が殺したという話は本当かどうかはわからないのである。著者は犯人が野放しなのが許せないとしているが、戦っているのはもっと巨大な社会悪である。社会がこうなってしまうのは生まれ持った人間の性質だと思う。簡単に責めることもできないだろう。だからといって著者が自分の正義を押し付けていいとも言えない。人間が人間であるかぎり、辻褄の合わないことだらけなのだ。所詮人が人を裁くことはできない。そこは肝に銘じた方がいい。
 この本は池井戸氏の本みたいに一気に読めた。読みものとしてすごく面白かった。この人の他の著作も読んでみたい。ただしツイッターはこじらせ気味だったことはお伝えしておく。