びーの独り言

どこいくの?どっか。

いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ

 三省堂の店頭で見つけた。経済学関連には興味はなかったが、シュンペーターのことは気になっていた。「新結合」という概念に妙に感動させられたからである。新規テーマ発掘という現行業務とも絡んでる気がした。一度スルーして、わざわざ後日買いなおしたくらい。専門書レベルだととっつきにくいかもしれないと思ったが、初心者にも読みやすいかなりの名文であり、面白くて一気に読んでしまった。珍しいことに3度も読み直した。
 シュンペーターの言ったことを以下にまとめる。経済の発展は新結合(イノベーション)が起こす。新結合とは不連続な技術革新のことである。例えば、徒歩→馬車→鉄道→自動車へと移り変わっていく際には経済の発展があった。携帯→カメラ付き携帯くらいでは従来の延長線上であるのでインパクトは小さかった。新結合の分類としては①新しい商品の創出、②新しい生産方法の開発、③新しい市場の開拓、④原材料の新しい供給源の獲得、⑤新しい組織の実現。新結合を遂行するのは企業者である。ルーチン的事務処理をしている経営者は企業者ではない。企業者は金儲けのために動かない。金儲けとは違う動機によって動かされる。①私的帝国ないし自己の王朝を建設しようとする夢想と意志、②勝利への意志あるいは成功を獲得しようとする意欲、③創造の喜び。そして、企業者精神の衰えと少子化を結びつけた。企業が金儲けに走り始めると没落するように、子供を産み育てるコストを冷静に計算し始めたとたんに少子化が始まる。金金言い始めたら社会は崩壊していくのである。景気循環については、企業者が群生的に出現するのが好況期で、その後徐々に静態化していくことが不況である。不況なくして経済発展なし。不況は宿命である。唯一の処方箋はあまり不況不況と騒ぎすぎないことである。
 小泉内閣の下で2001年6月に骨太の方針が発表された。これはシュンペーターと深くかかわっているとされる。「いかなる経済においても生産性・需要の伸びが高い成長産業・商品と、逆に生産性・需要の停滞する産業・商品とが存在する。停滞する産業・商品に代わり新しい成長産業・商品が不断に登場する経済のダイナミズムを「創造的破壊」と呼ぶ。これが経済成長の源泉である。/創造的破壊を通して労働や資本など経済資源は成長分野に流れていく。こうした資源の異動は基本的に市場を通して行なわれる。市場の障害物や成長を抑制するものを取り除く。市場が失敗する場合にはそれを補完する。そして知恵を出し努力した者が報われる社会を作る。こうしたことを通して経済資源が速やかに成長分野へ流れていくようにすることが経済の「構造改革」にほかならない。/創造的破壊としての構造改革はその過程で痛みを伴うが、それは経済の潜在的供給能力を高めるだけでなく、成長分野における潜在的需要を開花させ、新しい民間の消費や投資を生み出す。構造改革イノベーションと需要の好循環を生み出す。構造改革なくして真の景気回復、すなわち持続的成長はない。」
 シュンペーターは難しい理屈を言ってるものだと思っていたが、どっこいどうして。こうなってくると学問というより哲学である。金儲けに走ると滅亡するなんていうのは、とても面白い発想だ。法律に縛られて原理主義に走ってしまえば、そこから新しい発想は絶対に生まれない。仕事とは不可能を可能にすることである。売れるものは誰が売っても売れる。売れないものを売るのが営業だ。しかし、不可能を可能にすることはリスクの方が大きい。だから、大企業では誰も冒険しなくなる。大企業病と言われる所以である。私は会社では夢を追い求めるあまり衝突を繰り返し、結婚では打算的に考えて失敗してきた。アホというのはこういう奴のことを言うのだろうw。
 新結合の分類の話に関連して今の仕事の自論を書いておく。会社での私の役割では、サービス的な付加価値を付与するわけでもなく、デザインで差別化するわけでもないし、部品の組み立てでもないし、流通を変えるわけでもないし、新しい地域を開拓することではない。とことん素材にこだわり新しい機能を付与するだけである。このことでイノベーションを起こすには、①新しい設備、②新しい薬品、の2つしかないと考える。設備に関しては、製造業はまず設備が重要であるわけだが、この不況で設備投資を抑えてるのだから望むべきところはない。新しい薬品に関しては、これはうちで合成していないだけに完全に薬品メーカー頼みである。これでは祈るくらいしかできない。では、八方塞の状況下でどうしたらいいだろうか?隊長や同期Tと話してると「特許だろ」という結論になった。こうなってくると物作りとは一体なんなのだろうかと思う。儲かることがわかるのなら、そういう会社に投資すればよい。儲かることがわかるなら、自分でベンチャーを起こせばいい、儲かることがわかるなら、ライセンス収入を狙えばいい。金儲けに走れば、一番大事な製品が置き去りにされる。年始から社長が固定費削減を命令している。コストダウンなんて誰でも言える。指示の中に夢や使命感、ワクワクするようなビジョンは語られなかった。私は夢を具体化するものこそが形ある製品だと思う。だからだろうか。最近使命感や夢に活路を見出す動きが胎動し始めているような気がする。これについては職場で薦められた本を次回紹介する。
 一方、ケインズについては名前は知っているが、どういうことを言った人かまではわかってなかった。ケインズで有名なのは「不況のときは公共事業を増やせ」ということである。不況のときは、有効需要が不足しているのでその需要を生み出して投資を刺激せよということだ。こないだの講演で東大の伊藤教授は、今の日本は金が余っていて、投資先がない、と言っていた。これはまさしく有効需要が不足していると言える。だから、教授は贈与税を時限立法的にゼロにしよう、と主張している。周りを見渡せば、補助金のばらまきがあちらこちらで見られる。住宅ローン減税、ハイブリッドカーへの買い替え、エコポイント制、太陽電池導入、地デジTVへの移行、ETC車の高速道路料金割引等。もはや補助金なしにして新しい技術が普及しなくなったのかもしれない。新しい技術を創出するには金がかかり、それでいて大した機能も付かなくなった。人間の主観を満たすには、もはや宗教や麻薬くらいしかないのかもしれない。
 これに関して登場する議論が意外だったので驚いた。マンデヴィルは「贅沢という個人の悪徳こそが社会の利益や公益を増進する」と人間の欲望が資本主義を牽引することを主張した。また、ゾンバルトは「女性がリードする恋愛こそが贅沢の原因」、ロバートソンは「消費財について最大の解決策は、断えず新しい欲望を刺激し続けるという少々魅力に欠けたものであろう。実際この不道徳な方法をこつこつ実践した国が大不況という病いを延期することに成功した国なのである。」、消費は必要悪だということである。これから環境がビジネスになると言ってるにも関わらず、イマイチ盛り上がりに欠けるのは、景気を循環させるとライフサイクルアセスメント(LCA)的には環境に優しくないからだろう。エネルギー保存則を知ってれば感覚的に理解できよう。
 私は経済学について体系的なことは何もわかっていない。経済学を知ったとしても、何も生み出さないくらいの感覚しか持ってない。確率的に揺らいでる部分から利益を引き出し、誰かが損をする。儲かるのは銀行や証券会社だけみたいな。この本は経済の話だから、もしかすると全然わからないかもと思っていた。わざわざ探し出して買う必要があったのかどうか悔やんだ。でも、この著者は東大の教授だったのだが、素人の私でもとても面白く読むことができた。豊富な資料をバックに理路整然とした文章を展開してた。いくつかの文学賞も取ってるようだ。どうやら、元々の研究がシュンペーターケインズみたいな自論らしい。この本のお陰でもう少し経済のことを知りたいと思えた。シュンペーターについては補完予定。