びーの独り言

どこいくの?どっか。

津軽

津軽 (新潮文庫)

津軽 (新潮文庫)

 GWの青森函館旅行の時、青森県内のあちこちに太宰治の記念碑があった。他にセールスポイントはないのかと思うくらいだった。本州最北端の駅三厩に「津軽」の一節が書いてあった。「ここは本州の極地である。この部落を過ぎて路は無い。あとは海にころげ落ちるばかりだ。路が全く絶えているのである。ここは本州の袋小路だ。読者も銘肌せよ。諸君が北に向って歩いている時、その路をどこまでも、さかのぼり、さかのぼり行けば、必ずこの外ヶ浜街道に至り、路がいよいよ狭くなり、さらにさかのぼれば、すぽりとこの鶏小屋に似た不思議な世界に落ち込み、そこに於いて諸君の路は全く尽きるのである。」。この文章を見たときに、その格式高き文体と表現力、そしてユーモアに圧倒されてしまった。
 「津軽」は高校の教科書で知った。太宰といえば「走れメロス」だと思っていた私は、なぜ「津軽」が載ってるのかよくわからなかった。そのときの「津軽」の印象は、戦争中であったことと、育ての親である「たけ」に会ったくらいしか覚えてなかった。それでも、「津軽」という単語の響きは強烈で、太宰といえば「津軽」を思い出すようになっていた。
 普段の読書では、ビジネス本から資格の参考書など、実用書を中心にしていたが、心のどこかでは教科書に出てるような純文学にも手を出したいなと思っていた。日本人として日本を代表する作品を読んでおくべきではないだろうか。なぜ太宰は多大な人たちに大きな影響力を持っているのかいろいろ興味があった。
 この作品には、太宰が36歳−つまり私と同じ年−の時に、故郷である津軽を旅行した時のエピソードが紹介されていた。津軽の歴史や気候や住んでる人の気性が細かく綴られており、GW旅行の答え合わせ的な感じになった。ローカルな地名などが出てくるとニヤリとすること多数。いろんなところから資料を引っ張ってきて紹介しており、その取材力や知識量に圧倒されてしまった。
 序編から本編に入ると、いきなり30歳後半で死んだ作家が挙げられていた。これにはドキっとさせられた。やはりこの年が一つの節目であるのかもしれない。物書きが変なとこにたどりついて自殺したりするのは、文章を書くことで突き詰めなくていい部分を突き詰めてしまうためかもしれない。太宰も自殺未遂を繰り返し38歳で命を絶った。
 論理展開に注目していたが、空中殺法のように目まぐるしくて驚いた。自虐的な言い回しが多いのにも驚いたが、暗いというよりはユーモアが発揮されていた。思想もさることながら表現力に驚いた。ぐだぐだな部分もあるが、ところどころ光り輝く名文が散りばめられていた。その才能がうらやましいかぎり。驚いてばかり。
 津軽への愛情があちこちから感じられ、地元へのこだわりがみてとれるが、金持ちの家柄については批判的だ。太宰は津軽地方の名士である津島家出身であり、自民党津島派は遠縁にあたる。最後の最後で自分の友人は津島家に仕えていた人たちだ、と述べているが、やはり家柄に助けられてた面は大きいだろうにと思う。
 太宰は日本で2番目に人気のある作家らしい。日本人の琴線に触れる何かがあるのだろう。興味が湧いたのでさらに次を買ってある。