びーの独り言

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ビジネスマンの父より息子への30通の手紙

ビジネスマンの父より息子への30通の手紙    新潮文庫

ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 新潮文庫

 私の読書人生の中で異色の輝きを放つ一冊。私は高校のとき指揮者をしていた。指導的立場に立たなければいけないわりには相当やり方に問題があったのか、K先生から2冊の本を勧められた。デール・カーネギー「人を動かす」とこの本だった。結局、両方とも高校のうちには読むことはなかった。「人を動かす」は大学の研究室のときに読んだ。それは自己啓発本との初めての出会いになった。とても有名な本なので今でも書店で見かけることができる。一方、今回の本は高校2年くらいにベストセラーになっていた。面白そうだなと思っていたが、本気で探したことはなかった。目が悪くなるのを恐れて、大学時代はあまり読書しなかったという事情もある。時は過ぎて、ここ最近ビジネス書を読むにつれて、たまに思い出すようになっていた。ふと三省堂にいたときに検索してみた。あるかないかわからなかったが、運良く手にいれることができた。出会うまでに20年が必要だった。
 題名のとおり、父親が息子に当てた手紙がまとめられている。書き下ろしではなく、本当に手紙であり、出版するつもりもなかったようだ。著者は会社を経営していたが、2度の心臓病を患った。息子のために残したいことを考えたとき、それは金銭などの財産ではなく助言だった。
 これ以上期待して読んだ本は今までになかった。そして、期待以上に静かで力強く深い感動が待っていた。父親が息子に送る言葉には、息子に対する信頼と愛情で溢れていた。人生を生きていく中でのあらゆるエッセンスが詰まっていた。誠実であれ、目標を立てよ、休息をとれ、挑戦しよう・・・人生が素晴らしいと思えるような前向きな言葉が並んでいた。
 私の場合、父親とほとんど会話した記憶がない。例えば、誠実に生きろとか謙虚であれといったことは一切聞いたことがない。父親には一家の大黒柱としての威厳があり、何事も背中で教えられたという感じだ。いい大学に入らないと大人になってから困るということだけは刷り込まれたため、勉強に集中するような子供になった。おかげさまで今のところ食いっぱぐれることはないのだが、どこか満たされないものがあるようにも感じている。だからかどうかわからないが、この本にはそれを埋めてくれる何かがあるように思えた。
 最後にメモっておこう。「幸福は何かを成し遂げたときに得られる。何かを成し遂げるためには、自由意志による選択と態度、責任の受容と遂行、そして常に試みようとする、強固な不屈の精神が必要である。」