びーの独り言

どこいくの?どっか。

この社会で戦う君に「知の世界地図」をあげよう

 池上さんの14冊目。副題が「池上彰教授の東工大講義」。どんなことを教えているかに興味があった。
 最初に東工大のオファーを受けた理由が書かれている。「東日本大震災で大地震や大津波の危険性を専門家たちが警告していたにもかかわらず、なぜそれが政治や行政、そして東京電力の安全対策に生かされなかったのか。科学や技術が、ある意味で敗北したことを意味するのではないか。記者会見やテレビで解説する専門家たちの発表や説明が、視聴者や読者にとって理解不能であったのは、どうしてなのか。専門家たちに「わかりやすい伝え方」の能力が欠如していたからではないか。菅直人総理は、危機に際して、十分な指揮が取れなかったのはなぜか。理科系特有の「狭い視野」に陥った問題がなかっただろうか。理科系の専門家の発言が、文化系の国民に伝わらない。世の中が、あまりに「文化系」と「理科系」に分かれてしまい、大きな断層が生じているのではないか」。
 この下りにカチンときた。あまりに短絡的で偏見に満ちている。池上さんは経済や政治といった金転がしには精通しているが、相変わらず理系を理解していない。
 科学や技術は万能ではない。自然現象を科学の力で封じ込めようなんて驕り以外の何者でもない。ましてや地震のメカニズムは複雑系で予知はできないとみなされている。もし取るべき対策を取らなかったとするのであれば、責められるは国と東京電力の運営サイドである。東電の社長はずっと文系なのだが?しかも、地震の際の社長は、会長の娘婿。指揮を放棄して逃げた前代未聞のクズ。
 一般視聴者にわかりにくい記者会見と言うが、私にはわかりやすい説明をしないメディアがおかしいと思う。プレスリリースには正確さが求められるのであって、わかりやすさは二の次だ。記者会見はメディア向けなんだから、メディアが一般にわかりやすく解説しなければいけない。それにメディアにわかるように説明したら、メディアに叩かれるだけなのだから、当然隠そうとするわな。メディアがきちんと追求できていないだけの話だ。それよりもまず、東京電力を叩くとまずいことがあって偏向報道してるように見えたけど?
 菅直人氏のことは、邪魔したことばかりがクローズアップされるけど、撤退しようとした東京電力を怒鳴りつけたのは評価すべきことだと思う。これは何よりも一番優先すべき重要な決断だったと思う。私は行動することで総理大臣の覚悟を見せ、国民への大きなメッセージになったと思うんだけど?誰も体験したことのない状況の中で、危険を省みず行動したのは凄いと思う。新しい挑戦をしていくつかは失敗したかもしれないが、そんなに責められるべき致命的なことをしただろうか?菅氏を選んだのは国民だし、菅氏には責任と権限があったのだから。現場を見に行った理系の菅氏が責められて、逃げた文系の東電社長は責められないわけですね。池上さんは菅氏のどこが不適切だったかきちんと解説してくださいよ?
 理系と文系で区切ろうとしてるのは池上さんではないか?あえて理系サイドの意見を書かせてもらう。日本の戦後の躍進は科学技術の発展が原動力であり、すなわち製造業が支えてきたと言える。文系は何を創造してきたのか?自分で汗かいて働いてるだろうか?政治や経済という幻想で行ったり来たりしてるだけじゃないか?文系は技術をまったく理解しようとせず理系に丸投げにしている。いつも文系は自分たちではリスクを負わず理系のせいにする。近年、理系離れが進んでいるのは文系の方が得なシステムだからでしょ?誰もが実体を捨て幻想ばかりを追うハゲタカになってしまったら、これから将来の日本は誰が支えていくのか?池上さんは、ご専門ではない理系を評論するよりも、まずは政治や経済を仕事にしている社会人向けに助け合いや誠実さを講義してはいかがですか?
 話が大いに脱線してしまった。本題に戻ろうw。この本は教科書的な位置付けだけあってよくまとめられている。今までのダイジェスト版みたいになっているが、今までの本にはないネタも出ている。特に講義しなくても、この本を配るだけでいいんじゃないだろうか?全国の大学でも使えばいいよ。
 最後に日経の記事を使って、サムスンに移った日本人技術者についてどう思うかと問いかけている。この問いかけに正しい答えはない。いろんな角度から議論するのが大切、まるでサンデル教授みたいなノリだ。残念な点が二つ。一つは元の記事を載せてないこと。これは致命的だ。この章がだいなしになっている。著作権の関係かもしれないが、細かいニュアンスがまったくわからなかった。二つ目は技術者としての環境ばかりが注目されて、一番問題になるお金と家族の話題にほとんど触れられてなかった。実感が湧かない学生には酷かもしれないが、議論が偏ってたよね?
 実社会ではほとんどのことはわからないままに決めていかなければいけない。議論なんて十分にされず、上からの理不尽な命令に従わなければならないケースもほとんどだ。池上さんの話しは、知識のレクチャーやスマートな正論ばかり。どこか事務的できれいごとで冷たいものを感じる。地図は与えるのかもしれないが、自分で地図を書くことは教えない。私が学生にアドバイスしたいのは、教科書に書いてない理不尽で不条理で、そこが楽しいというところですよ。
 3回読んだ。1回で止めようと思ったが、2回読んで、やっぱり大切だから3回読んだ。池上本は読むほどに味がある。よくまとめられているので池上本のファンは満足できると思う。池上本の初心者はこの本から始めるといい。