びーの独り言

どこいくの?どっか。

菊と刀

菊と刀 (講談社学術文庫)

菊と刀 (講談社学術文庫)

 手元に学術書ばかり溜まってきた。もはや移動中に簡単に読めるレベルではない。で、移動用に軽い本が欲しかった。でも、無名な本や、役に立たなさそうな本は買いたくない。そこで目に飛び込んできたのがこの本。確か教科書にも出てくる。なぜか店頭に平積みされていた。どこが軽いんだw。昔、N教授との会話で「日本人は日本の文化を知るべきだ」と言われたことがあった。年をとるにつれて少しずつ日本文化というものに興味が出てきた。技術偏重な人間の新しい世界への挑戦。
 この内容は「利己的な遺伝子」以来の衝撃だった。第二次世界大戦中にアメリカ人が日本人を分析したものであり、日本人の気質や社会構造を鋭くあぶりだしていた。私が正しいと思ってきた価値基準の一部が、実は日本特有のものであることを知り、今までの自分って一体なんだったんだろうって考えざるえなかった。こうやりたいと思う心すら何者かにコントロールされていたと思うとゾッとした。
 いくつかの印象に残ったフレーズをメモっておく。「西欧人はまずたいていは、因襲に反旗をひるがえし、幾多の障害を克服して幸福を獲得することを、強さの証拠であると考える。ところが日本人の見解に従えば、強者とは個人的幸福を度外視して義務を全うする人間である。」「日本人は恥辱感を原動力にしている。明らかに定められた善行の道標に従いえないこと、いろいろの義務の間の均衡をたもち、または起こりうべき偶然を予見することができないこと、それが恥辱である。」「日本人は、自分の行動を観察し、他人がなんと言うであろうかということを基準にしてその是非を判断するように徹底的に訓練される。」「自己の集団の支持を得ることができるという確信をもちうるのは、他の集団から是認が与えられてる間に限られるのであって、もし外部の人々が不可とし、非難したならば、当人が他の集団にその非難を撤回させることができるまでは、あるいは撤回させることができない限りは、彼の属する集団は彼に背を向け、懲罰を加える。」
 日本人は自分の階層をまっとうするだけで満足し、決して他人の領域まで侵さない。自己を殺し他人に尽くすことが美徳だと考える。そして、君主に命を捧げ、両親を尊敬し、名を汚されることを忌み嫌う。年齢ごとにも期待される役割が違う。そうすべきだと教えられたことの理由は教えられはしなかった。それが当たり前だと信じ込まされていた。そうすることで社会秩序は保たれていたのだ!
 今ではインターネットが普及し国境がなくなるにつれて、西洋的考えが広く普及してきた。自分の役割だけを果たせばよいという考えではなく、どんどん成長していかないと脱落してしまう社会だ。その混沌とした状態が世代間の闘争になって現れてきて、ニートやフリーターなどの問題を生み出している。
 私が苦境に立たされているのも、上層部は会社のためには偽装もOKで下は上の言うことには従うもんだという考え方、私は会社は社会あってのものであり偽装は許されないとする立場、立ち位置が違うのだからわかりあえるはずがない。旧来の考え方におとなしく従って、ここは我慢しろと?他人の評価を気にする限り、私の心はいつまでたっても満たされないだろう。だから、自分の心を越えていくしかないのかもしれない。 
 このタイミングでこの本に出会えたのも不思議な巡り合わせだ。現代に通用するとは言えない部分もあるが、ハッと気づかされる部分の方がはるかに多い。こういう切り口があったのかと感動させられた。日本文化がわかるだけではなく、自分の考え方の根本までもが見えてくる。自分の心の動きを知りたい人に一読をお勧めする。確かに歴史的名著である。