- 作者: 小林三郎(元・ホンダ経営企画部長)
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2012/07/26
- メディア: 単行本
- 購入: 3人 クリック: 13回
- この商品を含むブログ (3件) を見る
何ヵ月か前に突然本社のNさんから貸してもらった。それより前にロックなFさんからもこの人すごいからと教えてもらったことがあった。ホンダはこの手の本をよく出してるが、開発の本人が出てくるのは珍しい。
著者はホンダでエアバックを開発していた。この本は論文みたいな構成になっていて、著者の経験をイノベーション論に落としこんでいる。あれっと思ったら、やはり一橋大学の野中郁次郎教授が絡んでいた。でも、堅いわけではなく、情熱的だ。実例がたくさん挙げられていて、歯切れもよく、わかりやすい。あらゆる角度から書かれているので、理解が進みやすい。
著者は、ホンダには哲学があるからイノベーションが生まれる、と主張している。ホンダの哲学とは人間尊重と3つの喜びである。人間尊重とは自立、平等、信頼。どんな人間でも本質には良心があると信じることである。3つの喜びとは、作る喜び、売る喜び、買う喜びである。人間が働く理由は喜びを得るためである。
商品開発では真っ先にコンセプトを決める。コンセプトがないと方向が決まらない。コンセプトは一言で語れるくらい、噛み砕かなければいけない。そのためには徹底的に議論が尽くされる。それがワイガヤ会議である。ワイガヤ会議では3日3晩議論しつくす。お互いに意見をぶつけることで、本質を見いだし、お互いのベクトルを同じ方向に揃えることができる。
商品開発では三現主義も重視される。三現とは現場、現物、現実である。コンセプトを机上の空論で終わらせず、要は現場を見ろということだ。
著者は仕事をオペレーションとイノベーションに分類している。オペレーションとは定型作業のことである。仕事の90%以上はオペレーションに属する。論理的であり正確さやスピードが求められる。一方でイノベーションとは、誰も経験したことがない説明しがたいものである。イノベーションは孤独な作業であり、何があってもやり抜く覚悟が必要である。魂のレベルまで徹底的に考え抜く。そうしないと相手に仕事の重要性や意義を伝えることができない。
安全性能について久米社長と議論する部分がもっともイノベーションの本質を表していた。著者が社長にエアバックについてプレゼンしたとき、社長に安全の3つの要素を聞かれた。著者はなんとか3つを答えた。すると社長は続けて「4つ目はなんだ?」と言った。答えられずに黙ってると、さらに「5つ目はなんだ?」と続いた。それだけでは終わらず「3つの優先度は?」「3つは完全独立事象か?」。このやりとりを読んだときには心底震えた。自分自身に当てはめてみると、ただただ身が引き締まる思いだ。理解する、とはこういうことなのか!
ホンダには以下の言葉が伝わっている。「俺が死ねと言ったなら、おまえは死ぬのか」「こんな難しい課題に取り組めて君は本当にラッキーな技術者だ」「一言でいうと何だ」「あなたはどう思う。そして何がしたい」。これらの言葉は、とても参考になった。すぐにでも現場レベルで使えるのはたいへんありがたい。
3日で読める。5回も読んだ。イノベーションを方法論として語る是非はともかく(所詮理由は後付けだし)、現場で役立つたくさんのサジェスチョンが得られるのが嬉しい。実際に読むたびにいろいろとアイディアが湧いてきた。イノベーションの教科書として定期的に読みたい一冊だ。