びーの独り言

どこいくの?どっか。

地獄変・偸盗

地獄変・偸盗 (新潮文庫)

地獄変・偸盗 (新潮文庫)

 芥川龍之介の4冊目。芥川には積極的に買いたくなる魅力がある。この本も短編集。今昔物と言われる古典をモチーフとした作品が並ぶ。
 「偸盗」にはひたすら暗い世界観が漂う。人間の心の奥に潜む悪をこれでもかと強調し、最後に悪の心の中にも慈悲の心があることに救われる。目の覚めるような名文。「地獄変」には芸術のためには娘さえ焼き殺す男が登場。芸術と現実のギャップを描いている。狂気の世界。緊迫感が素晴らしい。「竜」は、ウソをついたのに本当になってしまう話。認識論か?「往生絵巻」は周りに何を言われようが自分を貫く坊さんの話。「藪の中」は、殺人事件の当事者たちの証言で構成されている。三者ともに証言が異なっている。見方が変われば認識も変わる。「六の宮の姫君」はお姫様が没落していく話。「あれは極楽も地獄も知らぬ、不甲斐ない女の魂でござる。」、どきっとするなあ。
 どういうわけか以前の3冊より名作ぞろいに思えた。実験的な作品が並んでいるが、どれも完成度は高い。扱ってる題材は面白いし、表現も抜群だ。格調高き文体、技法の限りを尽くしている。日本語の言い回しがとにかくかっこよすぎる。